平成16年10月23日に阪神・淡路大震災以来の最大震度7となる新潟県中越地震が発生し、平成17年3月20日にはこれまで地震活動が活発でなかった九州北部で最大震度6弱の福岡県西方沖地震が発生した。また、東海地震、東南海・南海地震などマグニチュード8クラスの海溝型巨大地震の発生に対し、中央防災会議から死者数、経済被害額などの被害想定と減災目標が発表されるなど、いつどこでも起こりうる地震災害への対策が喫緊の課題となっている。通常時は経済活動の拠点として、緊急時には災害復旧・救援活動拠点としての重要な役割が求められる港湾施設においても耐震強化が急務の課題である。しかし、一般に重力式の耐震強化岸壁は堤体幅が広くなることにより建設コストが割高になることが多く、短期間で効率的に耐震強化岸壁の整備を行うのは必ずしも容易ではない。一方、北海道開発局では北海道東方沖地震、釧路沖地震における重力式岸壁の被災事例分析を踏まえ、釧路港西港区第4埠頭に設置した実大試験岸壁による地震時挙動観測システムにより、重力式岸壁の地震時挙動を平成13年度より観測を続けてきた。この観測プロジェクトは、観測データの解析に基づいて、重力式岸壁を対象としたより低コストで合理的な耐震設計法を提案することを目的としている。昨年度の論文では、この地震時挙動観測プロジェクト開始に至る経緯を述べるとともに、2003年十勝沖地震により実大試験岸壁が滑動した時についての解析結果を報告した。この解析結果により、岸壁ケーソン底面に作用する底面せん断力が一番大きくなる時刻には、動土圧と底面せん断力との間に明確な位相差が見られ、しかも液状化対策断面と未対策断面ではその位相差に明確な差異があること、さらにこの時刻におけるケーソンに作用した地震時土圧は現行設計法による算定値よりも小さな値であることを確認した。そして、現行設計法で用いられている物部・岡部の地震時土圧算定式における仮定と実際の地震時挙動との相違点を明確にすると共に、ケーソン滑動時における地震時各作用外力の向きと大きさを正確に評価した場合には、より小さな地震時土圧を提案できる可能性を示唆することができた。そこで本年度は、2003年十勝沖地震時の震度V強地震動と震度Ⅳ地震動の観測記録解析結果を比較することによって、背後地盤に液状化現象が発生した場合と発生しなかった場合の両方におけるケーソンに作用する動土圧と底面せん断力との位相の違いについて確認する。さらに、現行設計法に用いられている地震時にケーソンと背後地盤は同じ水平加速度で一体に動くとする地震時土圧算定法の考え方と比較して、地震時におけるケーソン及び背後地盤の挙動との違いをケーソンと背後地盤の水平加速度観測結果より確認する。そして実際のケーソンと背後地盤の地震時挙動を考慮した場合の地震時土圧算定法とこれを用いた重力式岸壁の新たな耐震設計法を提案する。また、この耐震設計法を用いて重力式岸壁の耐震設計を行った場合について、現行設計法と比較した場合のコスト縮減効果を明らかにする。 |