釧路湿原は、わが国最大の湿原(約2万ha) であり、特別天然記念物であるタンチョウをはじめとして、氷河期遺存種であるキタサンショウウオやクシロハナシノブなど、約2,000種の動植物が生息する傑出した自然環境を有している。しかし、釧路湿原の自然環境について着目してみると、近年50年間の間に、人為的な改変に起因すると考えられる湿原環境の悪化が顕著に見られるようになってきている。1947年から1996年の約50年間で湿原面積にして2割以上も消失し、植生分布も湿原の乾燥化に関連すると考えられるハンノキ林が、3.5倍以上も増加してきている。以上のような背景の中、平成15年11月には、自然再生推進法に基づく「釧路湿原自然再生協議会」が設立され、6回の協議会を重ねた後、平成17年3月には、自然再生の基本的な枠組みである「釧路湿原自然再生全体構想」が策定された。全体構想では、釧路湿原の保全という目標のために必要な6 つの施策について具体的に示している。施策の内「水・物質循環の再生」については、湿原本来の健全な水・物質循環を保全・再生することにより、湿原生態系を維持する物理・化学的な循環を再生しようという取り組みである。本稿では、釧路湿原自然再生全体構想に基づき実施している、釧路川流域の健全な水・物質循環の保全に向けた検討状況について報告する。 |