平成16年9月8日、台風0418号は北海道西岸を北上し広範囲を暴風圏に巻きこみ、北海道日本海沿岸各地に高潮・高波・暴風による未曾有の大被害をもたらした。この中でも後志支庁神恵内村周辺では一般国道229号(以下、「国道」と称する) に架かる大森大橋が落橋する被害が発生したことは記憶に新しい。また、同神恵内村の海岸線に隣接している家屋等は、護岸からの越波水によると考えられる被害を受け、窓ガラスやシャッター等の破損だけでなく住宅の半壊に至ったケースも見られた。この神恵内村の海岸に隣接する集落は、ほとんどの場合、護岸の背後の10数メートル幅の国道を挟んで直後に位置している。更に、家屋背後には急峻な崖が迫っており、今回のような災害時の主要な避難経路は国道を除いて他に無い状況となっている。当地においても高齢化が進み、 いわゆる災害弱者を多数抱えているため、高波浪による災害が懸念される状況では早い段階から効果的に避難を始める必要がある。この際には、一定の波浪条件に対して発生する家屋被害を正確に予測する必要がある。つまり、家屋被害を発生しうる波浪条件の境界値に関する情報が必要となる。港湾の施設の技術上の基準・同解説では、背後地利用状況からみた許容越波流量として、護岸の直背後に家屋がある場合の安全性に対する値が示されているものの、家屋の護岸前面からの後退距離の影響は検討されていない等、 十分に実務使用に耐えうる資料ではない。そこで本研究では、対象エリアを神恵内村赤石地区に絞り、現地海岸前面の急峻な勾配を考慮し、入射した波浪が特徴的に浅水変形した後に護岸を越波する現象を想定し、この越波水が陸上でどのような挙動を示して家屋被害に結びつくのかを把握し、この越波水の挙動と家屋被害の関係を定量的に結びつける事を目的としている。 |