溶射は、めっきやスパッタリングと同様に、基材表面の機能向上を目的として行う表面処理技術の一つである。鋼の防錆・防食を目的とした溶射については、1900年代初期から主に欧州において研究開発が進められてきた。特に、溶射と塗装を組み合わせた重防食溶射法は数十年単位での長期防錆効果があるといわれている。近年になって、ふたたび欧米では海岸地域での油田設備、軍需設備、橋梁等にこの重防食溶射法が積極的に利用されるようになってきた。このことは、この技術の利点が広く認知されるようになったことを意味し、すなわち重防食溶射法について、以前はイニシャルコストの高い技術として敬遠されていたが、近年になってあらためてメンテナンスコストをも考慮した、50年、100年単位でのトータルコスト(LCC)として見直すと、この重防食溶射法は塗装法等、他の防食法と比べて、十分低コストになることが理解されるようになったからと考えられる。日本国内でも、1990年以降、特に九州を中心として鋼製の橋梁に重防食溶射が採用される例が多くなってきた。このような背景をうけ、2002年3月には橋梁設計の際に指針となる「道路橋示方書・同解説」に代表的防錆防食法として塗装, 亜鉛めっき、耐候性鋼材の利用に加えて、新たに金属溶射も明記され、また2005年12月には「鋼道路橋塗装・防食便覧」にも、防食技術における金属溶射法の位置づけが明記され、より具体的な施工技術内容及び留意点等が記載されるようになった。本発表では、北海道溶射工業会と連携して実施した、①道内外での防食溶射施工に関する実態調査結果と防食溶射におけるLCCの試算、②2003年より開始した、道内4ヶ所(釧路、富良野、稚内、函館の各近隣地区)での防食溶射皮膜に対する屋外暴露試験の内容と途中経過を報告する。さらに、③2003年に行った、耐候性鋼材を使用した既存橋への補修を目的とした防食溶射の施工例も紹介する。 |