北海道において、郊外を巡る道路法面の植生遷移に注目すると、急速緑化で施した外来草本は時間を経て衰退しそこへ周囲に自生しているササが侵入し、やがてササ法面が成立する場面がみられる。北海道では、ササが平地から山地まで広範に自生していることから、この遷移は普遍的な現象である。この背景を考えると、人為で施した外来草本から自生のササに置換することは、人工から自然への回復と捉えることができる。法面を被覆したササは緑化植物としても十分に機能を発揮し、マット状に発達する根は土壌を緊縛し、表面崩壊防止の効果は永続的である。このことから、植生遷移によって生じるササ法面は北海道の風土に適した法面緑化の理想型のひとつと考えることができる。公共緑化事業に関わる昨今の状況をみると、自然の再生や保護に配慮が求められる場面が増えている。併せて,緑化に掛かる経費の縮減が現実的な課題である。これらキーワードの実現には、施工地の周辺に自生する植物を活用し、緑化の完成後には維持管理の労力を極力必要としない技術の導入が必須である。この視点から、 人為的にササ法面を実現できるならば、北海道に適した緑化技術のひとつになると考えることができる。法面緑化へのササの導入は、これまでも検討されてきた。野生のササを土壌ごとブロック状に掘り取って貼り付ける手法、林地から採取した根茎を埋設する手法などが試みられてきた。このように自然から掘り取ったササを直接活用する手法が執られた理由は、ササの野生種の多くは苗が流通していないこと、また既存の苗の生産技術では、法面への植栽に適した活力のある苗の生産ができないことなどが挙げられる。ササ緑化の実現は、苗に関する諸問題を解決する必要があり、筆者らは組織培養を活用した苗の生産技術を開発した。組織培養で生産したササ苗は、圃場での成長経過を観察した結果から初期成長が緩慢であることがわかった。この理由から、ササ苗を単体で使用すると、緑化の目的である景観形成と法面保護を早期に達することができない。ササ苗の利用は既存の植生工などと組み合わせて、草本からササへの遷移を経て緑化を完成させることが現実的であると考えることができる。そこで、道路法面におけるササ緑化の実現性を検証することを目的として、実用化を前提としたササ苗の生産システムを構築し、ササ苗の試験植栽を実施した。また自然条件下で自生のササが外来草本の衰退後に侵入している切土法面の状況を調査し、ササ緑化の適用範囲についても検討した。 |