北海道の北部に位置するサロベツ湿原は、戦後の農地開発により、排水路の整備や客土等の基盤整備が行われた。その結果、大規模な牧草畑が作られ、酪農業は豊富町の基幹産業に成長し、北海道を代表する一大酪農地帯として、地域経済を支えている。一方、サロベツ湿原は昭和49年に利尻礼文サロベツ国立公園に指定され、今日サロベツ湿原は豊富町の観光資源になっているものの、湿原の一部では乾燥化が進行し、その再生と農業との共生が地域の課題となっている。現在、豊富町地内の上サロベツ湿原の自然再生を目指した「上サロベツ自然再生協議会」が設立され、地域が一体となって上サロベツ湿原の再生に取り組んでいる。農業者も農地と湿原の共存の具体的方策として、湿原と隣接する農地に一定の空間を設け(以下:緩衝帯と呼ぶ)、上サロベツ湿原の保全・再生に寄与しつつ、農業の振興を図ることとし、その取組が開始されたところである。稚内開発建設部では、この緩衝帯の効果を検証するために、環境省と連携し、高位泥炭地と低位泥炭地に試験地を設置して、本年度から実証試験を開始した。実証試験では、試験地の地下水位の挙動を分析し、緩衝帯が農地と湿原の地下水位にどのような影響を及ぼすかを調査した。その結果、緩衝帯によって湿原地下水位は高位に保持され、且つ水位の変動幅が小さくなることが確認された。本報では上記の緩衝帯の概要と実証試験について報告する。 |