最近、従来の直線鋼矢板を現場打ちするセル工法の施工性を向上する目的で、鉄筋コンクリート製P・S・コンクリート製、コルゲート鋼板製、等の比較的剛性の大きなセル殻を起重機船で運搬据え付け土砂中詰するプリキャストセル工法とも云うべき工法が開発され、防波堤等にまで応用される様になった。しかし、この様に、鋼矢板を現場打ちせず、プリキャストセルを使用する工法は、施工性の向上の反面、構造物の形態を根入の浅いものにすることを余儀なくすると共に、セル殻の大きさがそれを運搬する起重機船の能力により制限を受けることから、その安定設計を許容安全率一杯に取って設計させることともなり、セル構造物の一つの特徴である。セルの径の大小に関らず単位構造延長当りの工費はほとんど変らないということ、すなわち、工費が変らない以上、不測の事態或は力学的に不明瞭な点に備え、セル径の大きな安全率の大きなものにして置くという、良い面が失なわれることともなった。 しかして、セル構造物の設計法としては、Terzaghi、Krynine、Schneebeli、Cummings、北島、等の諸氏によって色々な角度からの提案がなされているが、これ等はいづれも在来の現場打ち鋼矢板を使用し、その根入が十分にある構造形態、或は構造物全体の安定の安全度が改めて検討する必要がない程過大に採ってある場合についてのもので、したがって、その安定の検討も堤体全体の安定の面からではなく、堤体の下端が固定された状態で変形する場合の変形に伴う中詰砂の内部セン断破壊の面からの検討である。(註、堤体全体の安全度が極めて大きく、かつ、セル殻の剛性が小さい場合には、堤体全体が滑動またわ転倒する以前に提体がセン断破壊を起す可能性も大きいはづである。)しかるに、穀に剛性の大きなものを用いる一方、根入を浅くし、かつ、堤体全体の安定の安全率が低くセル殻と中詰土砂との断面割合の大きなセル構造物にあっては、セル殻が大部分のセン断抵抗力を負担することになるから、中詰土砂の内部セン断破壊の可能性は少くなるはづであり、この面よりはむしろ、セル構造が無底の重力式構造である点、ならびに、この様な工法を採る場合に避けられない、堤体の底部が強固な地盤に達していない点についての堤体全体の安定の検討がより重要になるものと考える。本文は以上の観点から、砂質基礎上に据えられる穀の剛なセル構造物の堤体全体の安定を二、三の実験を基礎に考察、解析し、その設計法を提示するものである。なお、若干の根入を持つ場合も、根入部の土庄は主受働土圧として外力となし、想定の構造物に包含してよいものと考える。 |