苫小牧港では土砂堀削による航路、泊地の建設と並行し、昭和36年度より本格的なけい留施設の建設に着手した。本港の繋留施設の特徴は浚渫工事に先行して岸壁の施工を完了し、前面泊地浚渫後ただちに岸壁の使用が開始されるべき点にある。この条件に適合する工夫としては、(1)鋼矢板岸壁及びセル式岸壁、(2)鋼管杭、H杭及びコンクリート杭を使用する杭式桟橋、(3)中間径コンクリート杭を使用する杭式桟橋、(4)井筒使用の岸壁又は桟橋が考えられるが、このうち昭和36年に着工された石炭岸壁2バース(-9.0m、330m)は土質条件、波浪条件を鑑み、井筒工法が採用された。また昭和37年に着工された西埠頭雑貨岸壁(-9.0m、4バース660m計画)は工法決定に先だち、杭打試験等、各工法を比較検討した結果、鋼矢板工法が採用されるに到つた。以後昭和42年度まで施工完了した岸壁は石炭岸壁2バースを除き、西埠頭雑貨岸壁4バース、石炭岸壁1バース、東埠頭雑貨岸壁2バース、計7バースは共に鋼矢板工法によるものである。また今後直轄工事として計画されている岸壁も一部条件上特殊なもののほか、この鋼矢板工法が継続して採用されてゆく趨勢にある。以上のように当港の矢板岸壁は前面泊地浚渫以前に岸壁本体が完成される、いわゆる浚渫型構造であり、その施工順序は、(1)現地盤+8.0mより+2.0mまでをスキ取り、YSP-Z45、I=18.0mを-15.8mまで打込む。(2)腹起し、控壁、タイロッドの取付。(3)上部場所詰コンクリートの打設及び電気防触。(4)堀削部分の埋戻。(5)前面泊地の浚渫。(6)エプロン舗装。の通りである。西埠頭雑貨岸壁は上記の工法で昭和42年現在まで4バース、約600mの完成をみている。しかし本岸壁は供用開始後にエプロン舗装の海側部分、巾約5mの一面が全バースに亘り5~10cm沈下する現象が表われ、甚だしきは実際に使用し始める以前に沈下を生じ始めている。従って本調査はこの沈下原因の究明、および本港のような浚渫型矢板構造がいかなる応力特性を持つかを解明、確認し、今後の設計、施工の参考に供するために行なわれたものである。 |