最近アーチダムの破壊例を見るに、フランスのマルパッセダム、ペルーのフライレーダム、イタリアのバイオントダムは記憶に新しいところである。バイオントダムは、貯水池内の地山崩壊による事故であり、マルパッセ及びフライレーダムは何れも基礎岩盤の破壊によるものである。これらの一連の事故以来アーチダム基礎の強さが問題視され、ダムの設計には、基礎を含めて均衡のとれた、安全性を保つよう配慮されなければならない。即ち、我々ダム技術者は、各々のダム地点に応じて基礎岩盤の安定性に最も有利になるように、ダムの位置、形状を選定しなければならない。とくに基礎岩石の良否に対しては、細心の注意を払わなければならない。従来アーチダムの中心角は110°~120°のものが応力状態が最も望ましいと云われて来たが、基礎の安定のためには出来るだけ、スラストの方向を山側に向けることが、望ましいと考えられるようになって来た。このことは川俣ダムの設計以来アーチ中心角を小さくすることにより、アーチスラストを山側に向け得ることが発見され、基礎岩盤の厚みを増すことが明らかになった。さらに、近年の電子計算機の発達により、今まで数値計算の難しかった、非対称アーチダム、さらには今まで数値計算の不可能に等しかった変半径アーチの解析を容易ならしめたことは、ダム基礎の設計に対し大きな役割を演じている。豊平峡アーチダムにおいても、ダムサイトの選定、位置及び形状と基礎の安全確保のため最善の努力を惜しまなかった積りである。 |