我が国の国土は、狭く細長い上に脊梁に山脈が縦断する急峻な地形を呈している。そのため、道路は海岸線や山岳部の急崖斜面に沿って建設されている箇所が多い。通常、斜面沿いに建設される道路の場合には、そのルート選定の際に斜面の安全に関しても十分な検討が成されており、斜面災害の危険性はほとんどないといえる。しかしながら、長期に渡る凍結・融解による岩盤斜面の風化などの斜面の経時変化により、その状態が計画・設計時と変化する場合があり、場合によっては落石等の斜面災害の可能性が考えられる。このような場合には、道路防災の観点から、その安全性に対する検討が必要になるものと考えられる。しかしながら、落石は暴風雨や積雪後の融雪時における斜面の緩み、斜面の凍結融解などに起因して突発的に発生する自然現象であり、不規則性が強く、事前にその発生時期を予測することは極めて難しい。そのため、必要に応じて防護工による落石対策を行うことが現実的である。ここで、このような落石に対して、発生源の危険度評価や、落石経路や到達範囲、衝突エネルギー等を精度よく推定することができれば、より適切な道路防災計画が可能となり、これによって効率的な資金投入が実施できる。結果として、コスト縮減および安全性の向上を図ることができるようになるものと推察される。これらの落石の評価手法の一つとして、個別要素法による落石シミュレーションが挙げられる。DEMは落石のような固体の運動をシミュレートするのに適した数値解析手法である。DEMを用いることで、落石の運動をシミュレートし、その到達範囲や衝突速度を推定することが可能である。 しかしながら、数値解析的な手法では、その計算の精度にある程度の信頼性が伴わなければ、実際に計画・設計に適用することは難しい。そこで本検討では落石対策工の合理的な計画や設計および、DEMを用いた落石シミュレーション手法の確立を目的として、岩盤斜面上から岩塊が落下した場合について2種類の落石シミュレーション手法(2次元DEM・3次元DEM)を用い、その適用性について比較検討したものである。本検討では落石の挙動を精度よく再現するため、現地で落石実験を実施し実際の定数を得た。これを基に落石経路や到達範囲の推定、落石が構造物に到達した時点でのエネルギーや衝撃力の推定を行った。 |