河川感潮域では塩水によって多様な生態系を形成している。北海道東部に位置する網走川もその1つであり、網走川は河口から約7kmの位置に網走湖を有している。網走湖は塩水流入のため下層に塩水層、上層に淡水層を持つ汽水湖であり、淡水層は塩水層からの栄養塩の溶解もあいまってシジミ、ワカサギなどの良好な漁場となっている。しかし近年、無酸素状態である塩水層が上昇傾向にあり、青潮などの漁業被害の危険性が高くなっている。このため、網走川では塩水遡上の抑制に対する様々な取り組みが継続的に行われている。従来までに塩水遡上を抑制する対策として、堰の設置や気泡を河川横断方向に噴射することにより塩水遡上を抑制する対策法が提案され、これらはいずれも優れた効果を示すとされている。しかし、洪水時の安全性の確保、河川環境への負荷、装置の維持管理の面で懸念が残る。このため、網走川では、鮭類の捕獲を目的として設置されている「やな」を塩水遡上抑制のための透過性構造物と見なす対策が検討されている。この対策法は、従来法とともに有力な対策案と言えよう。著者らは、「やな」を透過性構造物として扱い抗力測定実験から透過性構造物の抗力係数を測定し、塩水遡上実験より構造物が存在する場合の塩水遡上速度を計測して挙動特性について検討を行っている、また、実河川において透過性構造物が塩水の遡上と流下に対して及ぼす影響を総合的に判断するために、1次元2層流の数理モデルを構築し、計算結果から透過率の違いによる影響を検討している。しかし数理モデルの妥当性は、大潮時の観測値と計算値で比較して確認しているが、小潮時を含む長期間の計算結果の妥当性は確認していない。構造物の検討については、透過率の違いによる検討は行っているが、それ以外に設置箇所の違いや設置数の違いによる検討を行う必要がある。本論文では、長期間の計算結果の妥当性を確認するために、小潮と大潮を含む20日間の数値計算を行い観測値との比較を行った。また、構造物の設置箇所の違いおよび設置数の違いによる塩水遡上への影響を数値計算を用いて明らかにした。 |