日本の在来木造住宅は、住宅建築技術の方向が欧米の住宅とは根本的に異なる。「夏を旨とすべし」とは日本における住宅づくりの教えである。その意味するところは、意図的にあらゆる部分に隙間を作り、空気の外と内との区別を徹底的になくすることを目指すことである。床に使われる畳は最も特徴的で、床下からの空気を速やかに通すことで耐久性を保ちながら室内の通風にも寄与している。こうした隙間換気の考え方は住宅全体におよび、室内に空気のよどみをなくし、絶えず全ての部位が空気にさらされる構造を作り出している。我々が提案してきたパッシブ換気の要点は、基礎断熱した床下空間を冷外気の予熱に使った自然換気方式である。床下を利用し、内壁や床周りを従来通りの工法で作り上げることによって、受け継がれてきた優れた特性を断熱・気密住宅に取り戻すことができると考えた。床下空間から室内に空気を導入することに抵抗があるが、もともと日本の住宅では室内空気の相当量が床下から供給されてきたし、断熱や機気密層がなく、隙間だらけの床で仕切られた室内と床下空間との間にどれほどの違いがあるのだろうか。人が日本の在来木造住宅で床の上に立つということは、空気環境としては空中に存在することに近いのだから、提案するパッシブ換気が、人間を取り巻く室内環境を作り出すうえで、理想的な手法になり得ると考える。本報告は、パッシブ換気に床下暖房を加え、床下暖房方式の実住宅への適用について、実測とCOMISを使ったシミュレーションにより検討したものである。 |