稚内港北防波堤ドーム(以降ドーム)はその独自の構造や景観に優れ、歴史的価値は全国に認められており、稚内港のシンボルとして観光面でも重要な構造物となっている。阪神淡路大震災を契機にコンクリート構造物の耐震設計法が見直され、既設構造物に対しても耐震性を照査して、地震時の安全性を確保する補強工事が全国的に進められている。現施設は昭和53年~55年に全面改修し約20年が経過したが、潮風等が当たる過酷な海象条件下に位置しているため、コンクリート中に想定以上の塩分が浸入し、柱部分において帯筋の発錆とコンクリートの劣化が一部に生じている。ドームは、利尻・礼文島へ渡るフェリー埠頭に位置しており、観光客が集まるとともに災害時には重要拠点としてその機能を果たす役割が求められている。このため構造物としての耐震補強の要否判定とその方法については、平成9年度に「稚内港護岸(防波)(北)耐震補強検討業務」委員会(委員長:佐伯昇 北海道大学教授)を設けて検討した。耐震性能の検討結果によれば、柱部材の帯鉄筋が重ね継手となっており大変形を受けた時の拘束効果が小さいことや、鋼材腐食状態を考慮した場合にはレベル2地震動に対してせん断耐力不足となることが判明した。したがって、ドームの耐震性能を向上させ、将来にわたって耐久性の高い施設とするために柱部の改良(補強)の必要が確認された。補強方法は、既設帯筋を撤去し防錆処理を施したPC鋼線をスパイラル状に巻立てる補強方法を採用して、外観上違和感のない原形の形状に復元することとした。しかし、これらの補強方法は前例がなく、観光施設に近接しての施工となること等から、柱部材を模擬した試験体を作成して、はつり工法や巻付け工法の確認および断面修復材料の選定を行うこととした。本文は、当該工法を選定するに至った経緯と模擬柱試験の内容について報告するものでる。 |