農業用水は、かんがい用水としての機能以外に、農作物や機械の洗浄・洗濯などの生活用水としての機能や水生動植物の生息域を形成する生態系保全機能、豊かな水辺空間としての親水機能、さらには緊急時における防火機能や消流雪機能など多面的な役割を有しており、これら農業用水の多面的機能は一般に「地域用水機能」と総称されている。この地域用水機能は、主として地域の長い歴史の中で、生活上の必然性などからその地域の慣行として徐々に定着されてきたものであり、農業生産活動と地域住民の暮らしとの調和の中で、地域により維持管理がなされてきた。しかし近年、営農技術や産業構造、生活様式の変化により、地域用水機能の利活用や維持管理の体制等について、これまで主として地域コミュニティーを基本に行われてきたものが、産業基本の構造へと変わりつつある一方で、価値観の多様化等が進み、特に農村などを中心に豊かな自然や独特の気候・風土、歴史や文化などの上に成り立つ、個性豊かな暮らしの実現が志向されるなど、この農業用水と地域用水機能を取り巻く環境には大きな変化が見られている。このような中で平成10年度には、農業用排水施設の整備を行うに当たり、地域用水機能を正当に評価した上で、農業経営の安定及び近代化と併せて地域用水機能の増進に資することを目的とした『農業用水再編対策事業(地域用水機能増進型)、および地域用水機能を維持・増進するための諸活動や組織化への取り組みを支援するなど、農業水利資産の維持・保全をめぐる地域社会における新たな支援体制を確立することを目的とした『地域用水機能増進事業』)が創設されている。道内一部の稲作地域においても用水再編事業に先行し、平成10年度より機能増進事業を導入し、土地改良区または市町村が事業主体となって、その円滑な推進に向けた地域用水対策協議会及びその下部組織の設立・運営や地域住民への啓発普及活動の実施、農業用水と周辺自然との調和にも配慮した地域住民主導での環境づくりなど様々な取り組みが行われている。本報では、このうち国営かんがい排水事業篠津中央地区の受益地域において検討されている地域用水機能増進構想について、その検討過程について報告を行うとともに今後の取り組みの方向性や課題等について考察を行うものである。 |