北海道を代表する湿原の一つにサロベツ湿原がある。この広大で豊かな生態系を育む湿原はいくつかの自然的要因と人為的要因によって存亡の危機に立たされている。特に、当該地域においてはササ地の拡大 1)2)による湿原固有の植生の喪失が懸念されており、その主たる原因として地下水位の低下が指摘されている。そこで、この問題を考えるには湿原全体の水循環と地下水の状況を把握する必要がある。
本報告では、湿原植生と地下水の変化について以下のような検討結果を示す。
(1)高解像度の IKONOS 画像と空中写真を用いて過去約 20 年にわたる植生判読をおこない、感覚的によく言われる「ササが侵入している」実態を定量的に示した。
(2)「長期熱・水収支モデル」などで積雪・融雪を含む流域水収支の明確化を図り、信頼性のある地下水涵養量の推算を目指した。そのうち、数値フィルターによる地下水流出成分の分離によって「正味の地下水涵養量」を推定する手法を提案した。
(3)地下水の低下と河川水位の低下がリンケージしていることに着目し、河川水位の変化に地下水位がどのように追随するかを定常条件と非定常条件で計算し、分析した。
湿原の保全には流域全体を見据えた総合的な対策が必要である。そのうち、本報告で提案した方法論や結果は、河川水位のコントロールによって地下水の影響がどのように現れるか評価し、今後の保全対策を考える上で役立つと考えられる。 |