近年国内外で発生した大規模な津波の多くは、河川を遡上し多くの漂流物を伴いながら陸域に甚大な被害を発生させている。寒冷地域の河川においては流氷や氷板が漂流して被害発生源となり、実際に1952年に発生した十勝沖地震では、多くの氷板が春採川(釧路市)から遡上し被害を拡大させたことが報告されている。既往研究により、津波の河川遡上では水位が急激に上昇する波状性段波が発達し、沿川の危険性が高くなることが示されてきている。河道内の波状性団波と漂流物輸送が重畳する場合には、沿岸域での津波漂流物輸送を対象とした既往研究結果を直ちに適用することは難しく、同現象に関する知見は未だ不足しているのが現状である。そのため、河道内の津波防災計画を講じる上で、津波被害増大の原因となる漂流物の遡上速度・距離を考慮した、危険区間推定手法の確率が求められている。それを念頭に置き本研究では、河道内の氷板を対象として、既往研究では十分に踏み込まれていない波状性段波津波による氷板輸送特性の解明を目標とした水理実験を行った。実験では多数の氷板模型を水路内に設置して津波を遡上させ、氷板位置を変化させながら輸送過程の違いを調べた。実験結果により、氷板が存在する河道に津波が来襲した場合、氷板の輸送速度は時間的に津波波形と非常に近い形で変動することが明らかになり、輸送特性を適切に把握するためには波状性段波の特性を考慮する必要があることが示唆された。 |