大都市に隣接している東京湾などの閉鎖性水域では,貧酸素水塊や青潮といった水質汚濁現象が問題となっており,生態系に大きな影響を与えている.これらの水質汚濁現象の要因として,密度の成層化にともなう貧酸素水塊の形成と風による湧昇が挙げられる.東京湾を例に挙げると,5月から9月において日射の影響や淡水の流入により明確な密度成層が形成され,鉛直方向の溶存酸素の供給量が減少することで貧酸素水塊が形成されている.風に起因して上昇した密度界面は,巨大な振幅を持つ内部ケルビン波として湾奥部へ伝播し,底層付近の貧酸素水塊の湧昇を引き起こしている.さらに,この内部ケルビン波は,湾奥部の浅水域においてビーチにおける表面波と同様に砕波し,巻き上げを引き起こすことも知られている.
これまでに,内部波について室内実験や数値計算を用いた研究が行われてきた.その中でも,中山らは内部ケルビン波が砕波することによって,上層においてサイクロニックな特性(反時計回り)を持つ水平循環を発生させる可能性があることを示している.しかし,それらの研究では水平循環に関する考察は十分に行われておらず,水平循環がどのように発生し,発達・衰退していくかは解明されていない.そこで本研究では,回転水槽を用いた室内実験および3次元非静水圧数値モデルを利用した数値計算を行うことで,内部ケルビン波により誘起される水平循環に関して検討することを目的とする. |