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発表 美利河ダム上流に設置された分水施設におけるサクラマス幼魚の降下行動

作成年度 2014年度
論文名 美利河ダム上流に設置された分水施設におけるサクラマス幼魚の降下行動
論文名(和訳)
論文副題
発表会 平成26年度全国大会 第69回土木学会年次学術講演会
誌名(No./号数)
発表年月日 2014/09/10 ~ 2014/09/14
所属研究室/機関名 著者名(英名)
水環境保全チーム林田 寿文(HAYASHIDA Kazufumi)
北海道栽培漁業振興公社新居 久也(Nii Hisaya)
水環境保全チーム渡邉 和好(WATANABE Kazuyoshi)
北海道大学上田 宏(Ueda Hiroshi)
抄録
1.はじめに  北海道美利河ダムでは魚道を建設し,サクラマスなどの回遊魚の移動範囲の回復に努めてきた.しかし,魚道の上流接続地点はダム湖ではなく,上流のチュウシベツ川であったため,魚道上流端には,サクラマス幼魚(スモルトやヤマメ)などの降下魚を魚道に導入することを目的とした分水施設が設置されている(図-1,2).分水施設では,融雪出水で河川流量が大きい時期には,スモルトを含んだ流水が副堤下流(④)・ダム湖へ流下することが懸念されていた.ダム湖へスモルトが降下してしまうと,チュウシベツ川には再遡上できず,海への降下も不可能となる.ダム管理所では,スモルトの降下の現状を把握するため,スモルトにリボンタグなどを装着し分水施設の機能調査を数年にわたり実施してきたが,スモルトの融雪出水時のチュウシベツ川から魚道までの降下状況,魚道内降下数・ピーク時期,7月以降の降下行動の有無などが未解明であった.  美利河ダム上流部におけるサクラマス幼魚の降下行動の定量的な解明を行うため,バイオテレメトリー技術1)を用いてチュウシベツ川から分水施設にかけての降下状況,ダム湖への降下状況,魚道内の通過状況を把握するための調査を行った.本研究の結果は,河川横断構造物の定量的な評価が可能になるほか,分流施設の新規建設を行う際の基礎資料になり,サクラマス幼魚,特にスモルトの生態解明にも有益な情報にもなる. 2.方法  サクラマス幼魚の降下行動を解明するために,2種類のバイオテレメトリー機器を使用した.調査はすべて2013年に実施した.  機器の1タイプ目は,幼魚の長期的な降下時期・時間などの把握を目的にPITタグシステムを選択した.現地採取したサクラマス幼魚514尾(平均尾叉長 10.9±4.14 cm,平均体重 13.8±4.90 g)に,PITタグ(幅2.1mm, 長さ12mm, 重量0.1g, Biomark社)を,腹腔内に挿入し,6h以上河川内で馴致2)し,採取後24h以内に放流を行った.放流は,3月30日に286尾(平均スモルト度1.00),4月25日と5月2~14日に69尾(平均スモルト度2.04),5月17日に21 尾(平均スモルト度3.33),5月21日に125尾(平均スモルト度4.00)を実施した.放流場所は分水施設の1km上流地点とした.スモルト度は,外観からの特徴で1~4で評価され,スモルト度1はヤマメで,スモルト度4は完全に銀化していることを示す(図-3).PITタグシステムは,アンテナを魚の通過を測定する箇所に設置(図-2)し,そこをPITタグが装着された魚が通過することで魚のID(個体識別)と通過日時の把握が可能となる.  機器の2タイプ目は,スモルトの広範囲における降下行動の把握を目的に電波発信機を選択した.電波発信機は,位置を把握できるタイプ(NTQ-2, Lotek社:重量0.3 g )を使用した.5秒間隔でデータが発信され寿命は約30日間である.電波発信機は,現地採取した52 尾(平均尾叉長 13.4±1.0 cm,平均体重 25.9±5.9 g,平均スモルト度: 3.8)のスモルト腹腔内に装着し,6h以上河川内で馴致した2).採捕後24h以内に分水施設の30m上流より放流を行った.放流は,流量が7 m3/sを超えて,魚がダム湖への降下が懸念されていた5月16日から6月11日の間で約4日ごとに合計6回行った.放流個体は,1回あたり9尾程度とした.電波発信機の信号は,電波受信機(SRX_600, Lotek社)と八木アンテナのセットで受信が可能となる.このセットを分水施設内に4か所設置し調査を行った(図-2). 3.結果  図-3に,PITタグを装着した幼魚のスモルト度(放流時期)の違いによる降下時期を示す.平均スモルト度1.00の魚は,放流してから10日以内の4月上旬が最も魚道通過数が多く,続いて4月中旬,下旬となっており,降下数が次第に減少していったものの降下は6月上旬まで続いた.その後,9月上旬まで降下する個体は確認できなかったが,9月中旬・下旬,10月下旬には降下が再び確認された.平均スモルト度2.04の魚は,放流後24h以内に降下する個体が最も多く,5月上旬・中旬と続いた.その後,9月中旬に降下が確認された.平均スモルト度3.33の魚は,放流後3日以内の5月中旬が最も多く通過し,5月下旬まで確認された.平均スモルト度4.00の魚は,5月下旬に確認された後,1か月以上降下が確認されなかったが,7月下旬,8月中旬が最も降下数が多かった.降下は,11月中旬まで確認された.今回の調査で,スモルト度の違いによる降下のタイミングの傾向が異なることが明らかになった.  図-2に,分水施設上流より放流した電波発信機が装着された52尾の分水施設周辺の通過地点の割合を示す.1尾は放流地点での滞留が確認されたため,その1尾を除く,全51尾の通過地点の割合をみると,副堤下流に降下した個体が11.8 %,分水施設内に進入した個体が88.2 %,余水吐水路に降下した個体が7.8%,魚道に到達した個体が80.4 %であった.約9割の個体が分水施設内に進入し,その大部分が魚道に到達できることが明らかになった.本分水施設では,余水吐水路へ降下する幼魚はわずかであり,大部分が魚道を通過することが明らかになった. 4.まとめ  今後,流量とスモルトの降下状況の相関関係を把握することが必要である.副堤下流と余水吐水路へ幼魚が降下しない流量の閾値を把握することが,分水施設を設計・改良する際の参考となる.
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