南極氷床の融解は,海水準や海洋循環の変動を通して全球的な気候変動と密接に関連しているため,南極氷床 の融解メカニズムの把握は今後の気候変動予測にとって重要である.とくに氷床の消耗域である南極大陸の沿 岸地域における,氷床融解年代や古環境変動を記録する地形地質学的データは,近年注目されている海洋に起 因する急激な氷床融解プロセスを理解する上で非常に重要である.日本の南極観測拠点,昭和基地が位置する 東南極宗谷海岸には露岩域が点在し,多数の湖沼が存在する.湖沼堆積物は氷床融解後からの連続的な古環境 変遷を記録していると考えられ,その最下部に存在する氷河性堆積物の堆積年代は湖沼の成立,すなわち氷床 融解のタイミングを示すと考えられる.このように南極湖沼堆積物は,氷床融解年代と湖沼成立以降の古環境 情報を得ることのできる貴重な古環境アーカイブ試料であるが,これまで南極で用いられてきた人力による押 し込み式ピストンコアラーではその貫通能力の限界のため,そのほとんどが氷河性堆積物まで達していな かった.そこで我々は,第59次南極地域観測隊(2017年11月〜2018年2月)において,新型コアリングシス テム(可搬型パーカッションピストンコアラー)(菅沼ほか,2019)を用いた掘削を行い,5湖沼から得られ た堆積物コアの堆積相の記載,磁化率等物性データの取得,14C年代の測定を行った. |