| サケ科魚類の産卵後遺骸は水生昆虫や動物の餌をはじめとして河川生態系の栄養源となることが知られている。札幌市を流れる精進川では1998年からサクラマス稚魚の放流が行われて、いまでは産卵期には遡上個体が確認でき産卵後遺骸も鳥類に利用されているのがみられる。一方で、この精進川と豊平川の合流点には階段式魚道設置されていたものの、設置から50年以上を経て、魚類の遡上環境としては良好であるとはいえなかった。そこで、2022年にこの既存魚道の改良がおこなわれた。我が国において近年はじめられた魚カウンターによる魚類遡上数計測を自動化する試みは、カウンターセンサー設置の利便性から魚道内などでおこなわれることが多い。自然の河川での遡上数の計測は簡易魚道と組み合わせて行われた事例はあるが、まだほとんど報告がない。そこで、札幌市を流れる精進川において、その改善効果を期待して行われた魚道改良の前後で遡上数がどのように変化したのかを魚カウンターとトラックシートを用いた簡易魚道を組み合わせた手法により明らかにした。魚カウンターを取り付けた簡易魚道が2022年と2023年の9月から10月の遡上期に設置された。これらの簡易魚道の下流で行われた魚道改良工事の前と工事後のサクラマス遡上数が計測された。その結果、魚道改良前の遡上数より改良後の遡上数のほうが多いことが明らかになった。ただし、計測期間が2023年のほうが2022年より10日間短かったため、その期間を除いた遡上数を比較するとほぼ同数であった。精進川が流入する豊平川流域では2022年のサクラマス遡上数が例年より多く、そのため2023年には減少したことが知られている。これらのことより、魚道改良は遡上数の増加に貢献している可能性が高いと考えられた。サクラマスの遡上環境が劣化したような河川では、このような魚道改良工事が遡河性魚類の遡上を増加させ、遡河性魚類が持つ上流域生態系の栄養源供給機能の健全化に貢献できることを期待する。 |