| 1.はじめに
平成30年北海道胆振東部地震により、厚真川水系において大規模な河道閉塞や山腹崩壊が発生した。これらによる土砂災害を防止するための緊急対策工が北海道開発局室蘭開発建設部厚真川水系砂防事業所により令和元(2019)年から実施され、その後令和5(2023)年度までに恒久対策工が完了した。調査地の厚真川水系チケッペ川にもチケッペ川砂防堰堤が設置された(写真-1および 2)。
チケッペ川は地震以前より魚類がみられ、釣りなど地域住民の憩いの場であった。不透過型砂防堰堤では堰堤上下流の連続性が乏しくなることから、厚真川水系砂防事業所が実験的に砂防堰堤の水抜き穴を利用した簡易の魚道を設置した。ここでは、簡易魚道技術の提案とその効果について調べた結果を報告する。
2.調査地
調査地は北海道開発局室蘭開発建設部厚真川水系砂防事業所により砂防堰堤が設置された厚真川水系チケッペ川である(写真-1および 2)。設置されたチケッペ川堰堤は前述のとおり不透過型堰堤のため堰堤の上流側と下流側の流路の連続性が乏しい。このことから大型土嚢による水路と、単管およびトラックシートを用いた布式魚道(布川・権田2022)により、砂防堰堤の水抜き穴を介して魚類が通過できる簡易魚道を設置した(写真-1および2)。
簡易魚道は令和5(2023)年9月25日までに設置された。この簡易魚道の魚類遡上数を調べる目的で、防堰堤水抜き穴上流部において小型定置網により遡上数調査が行われた。砂防堰堤上下流では魚類および甲殻類が分布しており、遡河性のサケ科魚類やコイ科魚類もみられた(表-2)。
簡易魚道は、大型土嚢により幅約0.6 mから1 m、水深25 cm から75 cmの水路を水抜き穴から長さ40 m下流までの副ダム上に作り、副ダムと自然河川のとの落差を長さ2 m、幅約0.6 m、水深9.5 cm から18.5 cmの布式魚道により解消した構造になっている(表-1、写真-1および2)。
この魚道により、水抜き穴を介して、堰堤下流水面と堰堤上流水面とが接続された。この流路の接続により遡上してくる生物を、水抜き穴直上流に小型定置網(袖網部3 m×1 m:目合6 mm、袋網部4 m×0.5 m:目合4 mm)を設置して捕獲した。捕獲調査は定置網を1回あたり2晩から3晩設置した。これを令和5(2023)年9月26日から29日、同年10月4日から6日および同年10月10日から12日に実施した。それぞれの調査回中1日ごとに定置網の確認(のべ7確認)を行って、捕獲した生物は個体数と体長を計測した。
3.捕獲された水生生物
捕獲調査の結果、捕獲された生物はフクドジョウ(Barbatula oreas)とモクズガニ(Eriocheir japonica)だった。フクドジョウはすべての調査回で捕獲されていた。一方モクズガニは最終回(10月10日から12日)にのみ捕獲された(図-1)。捕獲されたフクドジョウの標準体長は6.2 mmから9.8 mmの範囲だった。
定置網の設置は簡易魚道設置完了(9月25日)から1日後(同月26日)に設置した。また、定置網設置開始以前に魚道内の魚類の除去はできなかった。そのため、本結果は、フクドジョウが布式魚道を遡上し、土嚢水路を経由して水抜き穴から砂防堰堤の上流に至ったことを直接的に明らかにしたものとは言えない。ただし、9月27日以降の定置網確認日(のべ6確認)のすべてでもフクドジョウの捕獲が確認できている。また、水抜き穴出口や布式魚道の流速がフクドジョウの遊泳能力以下の流速であり、水抜き穴の水深もフクドジョウの体長以上の水深であった。このことから、今回捕獲したフクドジョウの多くが布式魚道と土嚢水路を経由して、砂防堰堤上流へと遡上してきたと考えられた。
4.おわりに
本報告は北海道胆振東部地震後に設置されたチケッペ川砂防堰堤の水抜き穴を魚道として利用する簡易魚道の効果を報告したものである。本流域にはサケ科魚類をはじめ9種の魚類が確認できている。この中で、今回の簡易魚道設置後に水抜き穴直上で捕獲されたのはフクドジョウとモクズガニだった。水抜き穴は堰堤に土砂堆積が生じた場合は閉塞することから、これを利用する簡易魚道は土砂堆積までの一時的なものである。しかし、緊急性の高い工事により上下流の連続性が乏しくなった場合に、その後魚道設置が可能となるまでの期間において、水生生物の減少を少しでも軽減する手法として簡易魚道手法を提案することができた。また簡易魚道の遡上する個体がみられ、その効果も確認することができた。
引用文献
布川雅典・権田豊(2022)布式魚道を利用するサケ科魚類の移動数,第65回(令和3年度) 北海道開発技術研究発表会論文,251-254.
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